1.伝統と文化の尊重、国や郷土を愛する態度
教育基本法に「伝統と文化を尊重し、それらをはぐくんできた我が国と郷土を愛するとともに(略)」(第2条五)とある。そして「道徳科」の内容項目の指導の観点で、小学校第5学年及び第6学年では「C(17)我が国や郷土の伝統と文化を大切にし、先人の努力を知り、国や郷土を愛する心をもつこと」とある。また、中学校では「C(16)「郷土の伝統と文化を大切にし、社会に尽くした先人や高齢者に尊敬の念を深め、地域社会の一員としての自覚をもって郷土を愛し、進んで郷土の発展に努めること」とある。
伝統と文化を継承するには、とくに無形文化財はその担い手が必要であり、担い手がなければ継承されずに消滅する危機に瀕する。まさに歴史の闇の中に消えてしまい再現できない。また、歌舞伎におけるスーパー歌舞伎、アニメや初音ミクとのコラボレーションを例示するまでもなく、伝統は革新なくしては継続できない。子どもたちが生まれ育った郷土を愛する態度が下地となり、国を愛する態度へと同心円的に共振するのである。
2.「としまこどもカルタ」と「としまこどもカルタ地図」
東京都豊島区は、池袋駅を起点に都市化され、サンシャイン60ビルをはじめ、オフィスビルが聳え立ち、人口増加傾向に見えるが、昼夜間の人口動態率には格差があり、遠からずして「消滅都市」という烙印まで押された。その後、官民一体となりアートカルチャー都市へと変貌し、今では「住みやすい町」上位にランクインしている。とは言え、豊島区内の小学生に郷土を愛する心が無ければ、豊島区の再生、郷土の創生は困難である。
このような状況下で、小学校、教育委員会、ロータリークラブが連携し、2019年度東京池袋ロータリークラブは創立60周年記念事業の一環として、「としまこどもカルタ」と「としまこどもカルタ地図」を作成した。
この事業を始めるに先立ち、地域のニーズに応えるために豊島区教育長と区内小中学校長にヒアリングを行った。その中で、豊島区内の学校には海外から多数の子どもが通学しており、日本の習慣に馴染めず大変困っていることが判明した。さらに、小学校で進めている子どもたちの郷土愛を育む「ふるさと学習」で使用する、郷土地図などの補助教材が必要であることも分かった。そこで区内の小学生に、豊島区内の名所、寺院、神社、偉人などの絵(絵札)と言葉(読み札)を募集したところ、区内小学校20校から総計1210点もの応募があった。その中から、何度も選定委員会を開き、議論し、検討した結果、46枚の読札と絵札を選出しカルタにした。各地に「郷土カルタ」があるが、多くは絵札も読札も、こどもではなく大人が作成している。しかし「としまこどもカルタ」は、こども主体の手作りの珠玉のカルタであることが最大の特徴である。また、カルタの所在地を提示した「としまカルタ地図」も併せて作成した。
「としまこどもカルタ」は豊島区の小学校に2018年に10~20部、地図は全校生徒に配布いたしました。
3.「としまこどもカルタ」読札
あ行「あきですよ おしえてくれる けやきなみき」「いけふくろう いけぶくろえきで まってるよ」「うちゅうにも みらいにもいける トキワそう」「えんないに はるはさくらが まんかいだ」「おおつかの なつのさいごは ぼんおどり」
か行「かぞくあい てんそじんじゃで ふかめよう」「きれいだな ソメイヨシノの さくらまつり」「くやくしょに せかいのひとが あつまるよ」「げいじゅつを だいひょうするかお としまくで」「こうがんじ こころのとげも ぬけるかな」 (以下略)
秀逸な読札を紹介する。「うちゅうにも みらいにいける トキワそう」トキワ荘は、手塚治虫をはじめ漫画家が住んでいた漫画の聖地である。ここでは手塚治虫『鉄腕アトム』や藤子・F・不二雄『ドラえもん』などを想定した読札である。現在は、トキワ荘マンガミュージアムになっている。「こうがんじ こころのとげも ぬけるかな」巣鴨地蔵通りにある高岩寺は「とげぬき地蔵」の愛称で知られる。毛利家の女中が針を誤飲した時に、地蔵菩薩の御影を飲み込むと、針を吐き出したという郷土の昔話がある。そこで病気の治療にご利益があることで参拝者が絶えないが、ここではメンタルヘルスにまで言及している。以上は、一例であるが、小学生の感性には驚くばかりである。こどもらしい素直な、純真な読札となっている。郷土資料の詳細については「調べ学習」などでの対応が望まれる。
そして、群馬県を代表するかの有名な「上毛かるた」にも匹敵するようなカルタと地図が完成し、区内の小学校に配布した。夏休み中は「子どもスキップ」(学童保育の場)などで十数回のカルタ会を実施した。すでに、読札をすべて暗記しているこどももいた。子どもたちの楽しむ姿を見て、遊びながら郷土の歴史を理解し、郷土に親しみを感じ、やがて郷土愛が子どもたちに生まれることが確信できた。
4.豊島区名勝筆めぐり「カルタ書道展」
「としまこどもカルタ」の読札を、筆で巡りながら郷土の歴史を学ぶ「カルタ書道展」が、豊島区雑司が谷公園丘の上テラスで開催された(2023年2月16日~21日)。豊島区内15の小学校から1,100余の作品が集まり、優秀作品の201点が展示された。豊島区教育員会と当クラブの共催である。
豊島区は「とわに しあわせ まなびの町」であり、頭文字を合わせると「としま」となる。子どもたちは、過去から学び今日のために生き、未来へ希望をつなげるのである。その子どもたちが作成した「こどもカルタ」の読み札が筆文字で表され、情操教育に寄与している。まさに歴史を尊重し、未来への架け橋をつくる作業である。なお、この企画は、なの花書道会会長の金子春洋氏のご尽力によるものである。
5.デジタル版「としまこどもカルタ」
ユビキタス社会となり、教科書のデジタル化も進展した。こども一人ひとりがタブレットを常備している状況を活かすために、「としまこどもカルタ」デジタル化を推進し、こどもがいつでもどこでも活用できるようにした。
教員各位
ご指導をいただく先生に、次の点をご理解いただき、ご指導をお願いいたします。
〇 「絵札」「読札」の解説は、東京池袋豊島東ロータリークラブ、衛星クラブ、ローターアクトクラブの会員が分担して、執筆しましたので、全体の統一感が若干ありませんが、ご配慮をお願いいたします。また、「絵札」「読札」の解説は、小学生向けに平易に執筆を心がけましたが、こどもの発達段階に対応して、変更をしてください。また「調べ学習」等でこどもが詳しく調べるように、ご指導をお願いいたします。万一、表記上に間違い等がありましたら、ご一報をお願いいたします。
〇「としまこどもカルタ」は「社会」(郷土学習)「国語」(習字)「理科」(植物等)「図工」「特別な教科 道徳」「総合的な学習の時間」等、多様な教科での活用が期待され、教科横断的な学習も可能です。活用された実践事例、こどもの反応などの記録をお願いいたします。
〇 デジタル版「としまこどもカルタ」は、ご指導をいただき、課題を見つけ、少しずつ改善を図っていきます。
2022-2023年度 東京池袋豊島東ロータリークラブ
会長 小泉 博明
社会奉仕委員長 長尾 益男
このデジタルこどもカルタのお問合せ、ご意見は下記の当クラブ事務局へお願いいたします。
東京池袋豊島東ロータリークラブ
事務局住所:東京都豊島区池袋2-61-8 アゼリア青新ビル705
電話:03-3985-7577
事務局メールアドレス:info@ikebukuro-toshimah-rc.org
ホームページ: https://www.ikebukuro-toshimah-rc.org